「60人の客」は逮捕される? 12歳少女の人身取引事件で問われる不同意性交等罪の可能性

東京・湯島のマッサージ店で12歳のタイ人少女を働かせていたとして、経営者の男が労働基準法違反(最低年齢)の被疑事実で逮捕されたと報じられています。
報道によると、少女は33日間に約60人もの男性客の相手をさせられていたといい、性的サービスも強要されていたそうです。少女はタイ人の母親から日本に連れてこられたが、男の店に置き去りにされており、少女は「人身取引」(性的サービスや労働の強要)の被害者とみられます。
外国人の少女がたった一人で、日本に取り残され、性的サービスを強要されていたという痛ましい事件に、SNSでは怒りが広がり、「60人の男性客も逮捕してほしい」という声が上がっています。
相手が児童であることがわかっていながら、性的サービスをさせていた場合、男性客らは罪に問われる可能性はあるのでしょうか?
1 経営者の男や少女の母親が「人身取引」の罪に問われる可能性はある?
少女は「人身取引」の被害者だとみられていますが、日本ではどのような刑罰にあたるのでしょうか。
刑法226条の2では人身売買罪が規定されており、これに該当する可能性があります。
| (人身売買) 第226条の2 人を買い受けた者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。 2 未成年者を買い受けた者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。 3 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。 4 人を売り渡した者も、前項と同様とする。 5 所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、二年以上の有期拘禁刑に処する。 |
本罪は、外国人が人身売買によって日本に連れてこられたようなケースを対象に処罰する規定です。
対価を払って、母親から少女を「買い受け」、自己の事実的支配下に置くような場合には、男に2項が成立します。
他方で、「売り渡した」母親には、4項が成立します。
そのほか「児童買春防止法違反」(児童買春あっせん罪)や「児童福祉法違反」などに問われる可能性もあるでしょう。(警視庁は母親について児童福祉法違反の疑いで逮捕状をとったと報じられています。)
2 客に不同意性交等罪は成立する?
被害児童は12歳であり、経営者によって性的サービスも強要されていました。
では、サービスを受けた約60人の客に対し、被害児童が12歳であるという事実を知っていた場合、不同意性交等罪(刑法177条)が成立する可能性があるのでしょうか。
刑法177条3項では、16歳未満の者と性交をした場合には、たとえ合意の下であったとしても不同意性交等罪が成立すると規定されています。
| (不同意性交等) 第177条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。 3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。 |
性的サービスが、刑法177条1項の定める、性交、肛門性交(アナルセックス)、口腔性交(フェラチオ)、膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)や物を挿入する行為に該当する場合には、対象児童は12歳であるため不同意性交等罪が成立する可能性があります。
不同意性交等罪についてはこちらの記事をご覧ください。
もっとも、犯罪の成立には「故意」が必要とされ、故意は一般的に「犯罪事実の認識、認容」を指します。
すなわちサービスを受けた客側が、少女の年齢が16歳未満であると認識していた場合には、故意が認定され、本罪が成立します。
3 客に不同意性交等罪が成立する場合、経営者や少女の母親に共犯(共同正犯や幇助犯)は成立する?
経営者は少女に性的サービスを提供させており、その売り上げは経営者側や母親側に渡っていました。
もし客に不同意性交等罪が成立する場合、経営者や少女の母親など、少女に客を取らせていた店側の関係者に対して、不同意性交等罪の共犯(共同正犯や幇助犯)が成立する可能性はあるのでしょうか。
共同正犯が成立するには、共犯者間で共謀が必要になります。
簡単に言うと、双方が犯罪を行うことについて合意することです。
本件では、客側と経営者・母親側に共謀があるとは考えにくいので、共同正犯が成立する可能性は低いでしょう。
また、幇助犯が成立するには、犯罪の実行行為を容易にすることが必要です。
本件では、店側は場所を提供し、母親も少女を提供しているため、客側が行う不同意性交等の実行行為が容易になっていると評価することもできます。したがって、幇助犯は成立する可能性があります。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は児童が被害者となる痛ましい事件について解説しました。
なお、こちらの記事ですが、弁護士ドットコムでも簡略化したものが掲載されていますので、是非ご覧ください。
12歳タイ人少女の人身取引「客も逮捕して」 SNSで怒りの声、性的サービス受けた側の罪は? – 弁護士ドットコム
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