ぶつかりおじさん、避けずにぶつかったダメ?

駅のホームや路上でわざと女性や通行人にぶつかっていく「ぶつかりおじさん」をめぐって、剣道を学ぶ女子大学生のX投稿が話題になっています。
その方は、剣道をしており、ぶつかりおじさんに遭遇したとして、Xに以下のような投稿をしました。
「明らかに狙って突っ込んできたけど、こちらは剣道で鍛えた体幹と肩。微動だにせず正面から受け止めてしまった。相手の方が派手に体勢崩してよろけてたから、反射的に『あ、すみません💦』って謝っちゃった」
すると、この投稿に対して、当事者を名乗る匿名アカウントから「女性にぶつかられ肩を怪我しました。必死に避けましたが逃げられませんでした」などという書き込みが寄せられ、ともに2000万回以上表示されるまで拡散しています。
ことの詳細は不明であるため、一般的な話として、向かってくる相手を避けずにぶつかり返す行為には問題ないのでしょうか。また、虚偽の被害を訴えた場合にどのような法的リスクが生じるのでしょうか。
1 ぶつかりへの反撃行為
駅構内や路上で、相手がこちらに向かってくると認識しながら、あえて身をかわさずに「受け止める」、「ぶつかり返す」といった行為をした場合、暴行罪(刑法208条)に該当する可能性があります。
暴行罪における「暴行」とは、殴る・蹴るといった典型的な有形力の行使に限られず、相手の身体に向けて物理的な力を加える一切の行為を含むと解されており、故意に身体をぶつける行為もこれに含まれます。
もっとも、相手から一方的に危害を加えられそうになった場合には、正当防衛(刑法36条1項)が成立し、違法性が阻却される余地があります。ただし、正当防衛が認められるためには、次の要件を満たす必要があります。
①急迫不正の侵害が存在すること
②防衛の意思があること
③反撃行為が相当な範囲にとどまること(相当性)
本件の場合、相手が向かってきたとしても、回避が可能であったのにあえて積極的に衝突を選択した場合や、危険を排除するために必要な程度を超えて力を行使したと評価される場合には、②防衛の意思や③相当性を欠き、正当防衛が否定される可能性があります。
その結果、相手の行為が違法であったとしても、自らの行為が逆に犯罪行為と評価されるリスクは否定できません。
2 SNS上での虚偽
次に、SNS上で「自分が被害者である」と虚偽の主張を投稿する行為については、その内容や態様次第で、名誉毀損罪(刑法230条1項)が問題となります。
名誉毀損罪は、不特定または多数人が認識し得る状態で、特定人の社会的評価を低下させる事実を摘示した場合に成立します。
仮に、実際には存在しない加害行為をでっちあげ、「女性から故意に攻撃された」、「怪我を負わされた」などと投稿した場合、それが特定の人物を想起させ、社会的評価を低下させる内容であれば、虚偽であっても構成要件には該当します。
真実性や公益目的等が認められなければ、当該投稿の違法性は阻却されません。
3 まとめ
このように、いずれの場面でも「相手が悪いから許される」、「ネット上だから問題にならない」とは限らず、刑法上の要件をひとつひとつ充足するかどうかを冷静に検討する必要があります。
特に、感情的な反撃行為やSNS上での安易な発信行為は、思わぬ法的責任につながる可能性があるため、注意が必要でしょう。
なお、こちらの記事ですが、弁護士ドットコムでも簡略化したものが掲載されていますので、是非ご覧ください。
「ぶつかりおじさんを正面から受け止めた」法的に問題ある? 弁護士「相手が悪いから許される、という単純な話ではない」 – 弁護士ドットコム
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