ぶつかりおじさん(おばさん)を追いかけるリスクは?

路上や駅構内などで体当たりしてくる「ぶつかりおじさん(おばさん)」の被害を受けたという人が、SNS上に投稿した”意外な反撃方法”が注目を集めています。

あるXのユーザーは、ぶつかってきた相手の後を5分ほど無言でつけていったところ、「半泣きで謝罪」を受けたと投稿した。

また、これを引用する形で、別のユーザーは、相手の勤務先までついて行き、受付で「突き飛ばされたので被害届をだそうと思って」と伝えたと明らかにしています。

このように”加害者”とされる人物の職場に被害を申告する行為は、被害を訴える側にとってどんな結果をもたらすのか解説します。

1 ぶつかりおじさんの罪は?

そもそも、体当たりされてケガをした場合、「ぶつかりおじさん」はどんな罪に問われるのでしょうか。

体当たりは、人に対する違法な有形力の行使であるため、暴行罪(刑法208条)が成立します。さらに、体当たりによってケガをした場合は、より重い傷害罪(刑法204条)が成立します。

(暴行)
第208条
 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(傷害)
第204条
 人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

2 被害者が「ぶつかりおじさん」の勤務先に被害を申告した場合のリスク

では、被害者が、「ぶつかりおじさん」の勤務先に「被害を受けた」と申し出た場合、どんな法的問題が生じるのでしょうか。

最も問題になるのは、その申告が名誉毀損罪(刑法230条1項)にあたるかどうかです。

名誉毀損罪は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」したときに成立し、法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています。

(名誉毀損)
第203条1項
 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

名誉毀損が成立するには①公然性、②事実の摘示、③社会的評価の低下、という3つの要件を満たす必要があります。

ではこれらの要件について、ぶつかりおじさんを相手の会社に申告する場合どのような点で問題になるか見ていきましょう。

① 公然性
名誉毀損での公然性は、不特定または多数の人に情報が伝達され得る状態のことを指します。
例えば、SNS上や不特定多数人がいる教室などで、事実を告げるとこれに該当します。

今回、相手の会社に申告する際に、会社のエントランス等複数人の出入りが想定されるような場所で、大声で叫ぶと公然性要件を満たすでしょう。

ですので、申告の際は、受付や少数の会社担当者にのみ告げましょう。

② 事実の摘示
名誉毀損が成立するには、具体的な事実を摘示する必要があります。
すなわち、「バカ」、「アホ」等の個人の意見や評価ではなく、人、場所、時、行動等が具体的に指摘されていないと名誉毀損は成立しません。

今回ですと、「この人ぶつかりおじさんです」という旨の申告だけだと具体的な事実の摘示ではないため名誉毀損罪は成立しないですが、上記①要件を満たす状態で「この人は、今日○時〇分に、○○駅前で、私の体に体当たりをして怪我を負わせました。」と具体的に申告する場合には名誉毀損が成立し得ます。

③ 名誉の毀損
名誉の毀損とは、その人に対する社会的評価(その人に対する世間の評価)が低下し得る状態になったことを指します。
すなわち実際に社会的評価が低下することまでは求められず、単に、「低下するおそれがある状態」で足ります。

ぶつかりおじさんである事実は、一般人に、その人が暴力的な人間であるという印象を与えるため、社会的評価が低下し得る状態にあるといえるでしょう。

このように、会社への申告は、場合によっては名誉毀損に該当するおそれがあります。

ですが、①要件、すなわち申告の方法さえ気を付ければ特段問題はないので安心してください。

3 被害に遭ったらどうする

では実際にぶつかりおじさんの被害を受けた際、どんな対応をとるべきでしょうか。

被害に遭ったら、まずはその場で相手を呼び止め、警察に通報してください。一人では不安な場合もあると思いますので、周囲の人に助けを求めましょう。

世間では「ぶつかりおじさん」と呼ばれると、どこか柔らかい印象さえ持たれますが、実際にはれっきとした犯罪行為です。

冤罪には注意しつつも、社会全体でこのような行為を減らしていくことが望まれますね。

なお、こちらの記事ですが、弁護士ドットコムでも簡略化したものが掲載されていますので、是非ご覧ください。
ぶつかりおじさんに反撃、尾行して勤務先に被害申告していいの? スカッとするけど意外な法的リスク – 弁護士ドットコム

あかがね法律事務所では、刑事被害者支援や加害者弁護も行っております。

以下よりご相談をお待ちしております。

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