一般の企業が退職代行サービスを行うことは非弁行為に該当して違法となるか?

近年、「退職代行サービス」という言葉を耳にする機会が増えています。
しかし昨日、一般企業が退職代行サービスを行っていたところ、弁護士法違反(非弁行為)の疑いで家宅捜索が行われたというニュースが報じられました(本記事は令和7年10月23日時点のニュースを参考に執筆しています。)。
退職代行「モームリ」運営会社に警視庁が家宅捜索 弁護士法違反の疑い 違法に弁護士にあっせんし紹介料受け取ったか(TBS NEWS DIG Powered by JNN) – Yahoo!ニュース
では、一般の企業が退職代行を行うことは違法なのでしょうか?
この記事では、弁護士法の観点からそのポイントをわかりやすく解説します。
1 非弁行為とは?
まず前提として、「非弁行為(ひべんこうい)」とは何かを押さえましょう。
非弁行為とは、弁護士資格のない者が、報酬を得る目的で法律事務(交渉・請求・示談など)を行うことを指します。
これは弁護士法第72条で明確に禁止されています。
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止) 第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 |
退職代行という行為自体は一見シンプルに思えますが、実際には未払い残業代請求・退職時期に関する調整・有給休暇の消化・退職金請求などの法的問題が絡むことが多く、単に退職の意思表示のみで終了ことは難しいです。
したがって、企業が金銭や待遇に関する「交渉」まで行うと、非弁行為に該当するおそれが極めて高くなるのです。
2 一般企業の退職代行が非弁行為にあたるケース
一般企業(株式会社など)が退職代行サービスを提供する場合、基本的には本人の「使者」として退職の意思を伝えるだけであれば、非弁行為にはなりません。
「使者」とは、本人が決めた意思内容をそのまま相手に伝えるだけの立場を指します。
たとえば、
「本人が退職を希望しています」
「本日付で退職の意思をお伝えします」
といった意思の伝達にとどまる場合は、違法ではありません。
しかし、次のような行為を行うと、「使者」の範囲を超えた交渉や法律事務に該当し、非弁行為となるリスクが非常に高くなります。
- 未払い残業代・給与の請求や交渉
- 有給休暇の消化・買い取りの調整
- 退職日をめぐる調整・交渉(例:相手方から「退職は1か月後に」と言われて「いいえ、2週間後に」と折衝するなど)
- 退職金の請求や条件交渉
- ハラスメントに対する謝罪や慰謝料の請求
- 会社側からの損害賠償請求に対する対応
こうした行為は、法律上「交渉」や「代理」に該当するため、弁護士資格のない一般企業が行うと弁護士法違反(非弁行為)になるおそれがあります。
3 非弁行為に該当しない退職代行とは?
非弁行為のリスクを避けつつ、適法に「交渉」まで対応できる退職代行は、次の2種類に限られます。
⑴ 労働組合がする退職代行
労働組合法に基づく労働組合は、組合員のために会社と団体交渉を行う権利(団体交渉権)が憲法28条で認められています。
第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。 |
このため、退職希望者がその労働組合に加入すれば、組合が適法に会社と交渉を行うことが可能です。
実際、労働組合系の退職代行サービスでは「加入金」や「組合費」を支払う形で一時的に加入し、団体交渉として退職交渉を進める仕組みを採用しています。
⑵ 弁護士(法律事務所)がする退職代行
弁護士は、法律事務の専門家として本人の「代理人」となり、退職の意思伝達から交渉、未払い賃金請求、慰謝料請求、訴訟対応まで一括して適法に行うことができます。
法律トラブルに発展する可能性がある場合は、最初から弁護士に依頼することが安全です。
4 一般企業の退職代行を利用する前に注意すべきこと
最近はSNS広告などで「即日退職可能!」「会社とのやり取りは不要!」と宣伝する退職代行サービスも増えています。
しかし、その運営主体が一般企業か、労働組合・法律事務所かによって、法的な安全性が大きく変わります。
もし一般企業が会社と交渉しているような実態があれば、非弁行為として摘発される可能性がありますし、利用者自身が不利益を被るおそれもあります。
5 まとめ
退職代行は、働く人の心理的・時間的負担を軽減する有用なサービスです。
しかし、法律に違反する形で提供されている場合、思わぬトラブルに発展することもあります。
弁護士が関与する退職代行なら、
- 退職の意思伝達から会社との交渉
- 未払い残業代や退職金の請求
- ハラスメント被害への対応
まで、すべて法的に適正な手続のもとで行うことが可能です。
あかがね事務所では、退職の意向伝達から未払い残業代の請求、退職条件の交渉まで、弁護士が一貫してサポートしています。
企業とのやり取りに不安を感じる方、トラブルを避けて円満に退職したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
以下よりご相談をお待ちしております。