海外で大麻を吸うのは違法?弁護士が「海外なら大丈夫は誤解」と警告するワケ

近年、大麻が合法化される国々が増え、大麻の娯楽使用のために合法国を訪れる観光客が増えました。
日本でも、最近、「タイで大麻を吸った」動画を公開したインフルエンサーもいましたね。
では、海外で大麻を吸うことは違法なのでしょうか?
1 日本人が海外で大麻を使用した場合、国際法で処罰対象となる?
国際麻薬統制条約(1961年「麻薬に関する単一条約」等)により、大麻を含む麻薬の規制については各国が国内法で処罰・規制を整備する義務を負っています。
しかし、本条約は「加盟国が自国の法律で処罰するよう努力する義務」を課すにとどまり、条約自体が直接個人を処罰する仕組みはありません。
よって、本条約そのものに基づいて、個人が海外で大麻を使用したからといって国際機関に処罰されることはありません。
では、昨今問題となっている動画、タイではどうでしょうか。
これまでタイでは、医療目的で大麻の販売や使用が許されていました。しかしながら、近年、大麻の娯楽使用を目的とした外国人観光客の増加から、大麻の所持・使用に関する規制の意見が増えていきました。
そこで、タイ政府は、令和7年6月26日付で大麻を購入する際に医師の処方箋の提出を新たに義務づけるなど、規制を強化することになりました。
もし処方箋を取得することなく大麻を購入している場合、タイ法で処罰対象となり得るでしょう。また、処方箋を取得していたとしても、公共の場で喫煙(大麻使用)を行い他人に迷惑をかけると判断されれば、別途処罰対象となり得ます。
もっとも、タイでは規制体制がまだ整っておらず、処方箋なしでも大麻を購入できる店は多いです。
2 大麻を吸った動画が大麻の「使用」、「所持」の証拠として扱われ、帰国後処罰につながる可能性はある?
まず、前提として日本における大麻の処罰規定を確認してみましょう。現在、大麻の所持、使用は「麻薬及び向精神薬取締法」で処罰対象となっています。
そして、所持は同法66条で、使用は同法66条の2(27条)で処罰対象となっています。
【所持】 第66条 ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持した者(第六十九条第四号若しくは第五号又は第七十条第五号に規定する違反行為をした者を除く。)は、七年以下の拘禁刑に処する。 2 営利の目的で前項の罪を犯したときは、当該罪を犯した者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処し、又は情状により一年以上十年以下の拘禁刑及び三百万円以下の罰金に処する。 3 前二項の未遂罪は、罰する。 ※「麻薬」とは大麻を含みます。 |
【使用】 第66条の2 第二十七条第一項又は第三項から第五項までの規定に違反した者は、七年以下の拘禁刑に処する。 2 営利の目的で前項の違反行為をしたときは、当該違反行為をした者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処し、又は情状により一年以上十年以下の拘禁刑及び三百万円以下の罰金に処する。 3 前二項の未遂罪は、罰する。 第27条1項 麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。 一 麻薬研究者が、研究のため施用する場合 二 麻薬施用者から施用のため麻薬の交付を受けた者が、その麻薬を施用する場合 三 麻薬小売業者から麻薬処方箋により調剤された麻薬を譲り受けた者が、その麻薬を施用する場合 ※2項以下は省略します。 |
では、これらの規定は国外でも適用されるのでしょうか。「麻薬及び向精神薬取締法」は次のように定め、大麻の所持に関してのみ国外でも処罰対象としています(使用は国外犯処罰規定が存在しないため、処罰対象ではないです。)。
第69条の6 第六十四条、第六十四条の二、第六十五条、第六十六条、第六十六条の三から第六十八条の二まで、第六十九条の二、第六十九条の四及び前条の罪は、刑法第二条の例に従う。 刑法第2条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。 |
では、タイのように一応は大麻の所持が合法な国でも、日本法による処罰対象となるのでしょうか。
「麻薬及び向精神薬取締法」66条1項は「みだりに・・・所持」することを禁じています。ここでいう「みだりに」とは、一般的に日本および対象外国双方でともに所持が違法になる場合に該当すると言われています。ですが、現状、定まった見解は存在しません。
よって、上記一般的見解に従うと、タイで合法な所持であれば、日本法で処罰されることはないでしょう。
ですが、あまりにもリスクがあるため、海外での所持もお勧めしません。
3 国内で違法な行為を海外で行った動画をYouTubeで公開するリスクは?
大麻のように、「海外であれば合法である」という誤った情報を信じ、違法行為に及んでしまう方が後を絶ちません。帰国後に、捜査機関が「動画を見たから」という理由で、任意の事情聴取を行う可能性もあります。
また、SNS等に公開された動画は、就業先・学校などで社会的評価に影響するリスクがあります。
国外であっても、どのような行為が日本法で処罰され得るかの判断は難しいです。
少なくとも、日本国内で違法である行為は、外国でも控えるべきでしょう。
4 まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、海外での大麻使用について解説しました。
「海外だからと大丈夫」と思い、羽目を外すのは控えましょう。
なお、こちらの記事ですが、弁護士ドットコムでも簡略化したものが掲載されていますので、是非ご覧ください。
【「タイで大麻吸う」動画が物議、犯罪に問われる可能性ある? 弁護士が「海外なら大丈夫は誤解」と警告するワケ】
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