我慢できないとき異性のトイレを使うのは違法?

連休中、観光地にあるトイレや高速道路のサービスエリアのトイレなどが混み合う状態をよく見かけます。特に女性用トイレは個室数が限られていることもあり、列が長くなりやすいです。

男性用より女性用のトイレが少ない「男女のトイレ格差」という言葉も見聞きするようになりました。

令和8年3月には国土交通省がトイレ設置をめぐるガイドライン案を示し、女性用トイレを増やす動きもみられます。
しかし、トイレの数が十分ではない現在、切羽詰まった女性が男性用を「緊急」で使うことは許されるのでしょうか。

今回は、緊急時に異性用のトイレを利用することは問題がないか解説していきます。

1 そもそもどんな犯罪になるの?

まず問題となり得るのは、刑法130条前段の「建造物侵入罪」です。

(住居侵入等)
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。

同罪は「正当な理由がないのに」他人の管理する建造物に「侵入」した場合に成立します。もっとも、ここでいう「侵入」とは、管理者の意思に反して立ち入ることを意味すると解されています。

トイレは不特定多数に開放されている施設ではありますが、通常、男性用・女性用と区分されている以上、異性用トイレへの立ち入りは管理者の意思に反すると評価される余地があります。そのため、形式的には建造物侵入罪の構成要件に該当し得るでしょう。

しかし、実際に犯罪が成立するかは別問題です。たとえば、女性用トイレが極端に混雑し、生理現象として差し迫った必要がある場合には、「緊急避難」(刑法37条1項)が成立し、違法性が阻却される可能性があります。

2 緊急避難が成立するためには?

緊急避難の条文は次のとおりです。

(緊急避難)
第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

緊急避難が成立するためには、一般に次の4要件が必要とされています。

① 現在の危難の存在
② 避難の意思があること
③ やむを得ずにした行為であること
④ 保護法益と侵害法益の均衡

これを本件に当てはめると、以下のとおりです。

① 現在の危難

「現在の危難」とは、法益(守られるべき利益)侵害の危難が現に存在しているか間近に押し迫っている状況を指します。

本件のように排泄の我慢が限界に近い状況は、単なる不快感にとどまらず、場合によっては失禁という重大な不利益(名誉権侵害や羞恥心を受ける等の人格的利益の侵害)につながり得ます。そのため、切迫した状況であれば「現在の危難」に該当する余地があります。

もっとも、少し我慢できるが並びたくないといった程度では足りず、時間的切迫性が重要となるでしょう。

② 避難の意思があること

避難の意思とは、上記現在の危難を避けるために行動を起こしたという意思を指します。したがって、男性用トイレを利用する行為が、のぞき等の別目的のためではなく上記危難(失禁等)を回避する手段である場合にはこれが認められるでしょう。

③ やむを得ずにした行為であること

「やむを得ずにした行為」とは、避難行為が現在の危難を避けるための唯一の手段であって、他に適当な方法がなかった状況下での行為を指します。

例えばですが、近くに空いている別のトイレがないか、少し時間を置けば女性用トイレを利用できたか、といった事情が考慮されます。これらの代替手段が存在する場合には、「やむを得ずにした行為」とはいえず、緊急避難は否定されやすくなります。

④ 保護法益と侵害法益の均衡

緊急避難が成立するためには、侵害される法益と、守ろうとする法益が均衡でなければなりません。

すなわち、本件では、名誉権や羞恥回避のための人格的利益(守ろうとする法益)が、トイレ施設管理権(侵害される法益)と同等かそれ以上のものでなければなりません。近年はSNS等の発達により名誉権自体が強くなっている傾向がありますので、緊急避難が成立する可能性は十分あり得るでしょう。

3 まとめ

このように女性が男性用トイレを利用した場合、形式的には建造物侵入罪の成立が問題となり得ますが、実際には緊急避難の成否が大きな争点となります。特に、どの程度切迫していたか、他に手段がなかったか、どのような利用態様だったかといった具体的事情が重要となるでしょう。

真にやむを得ない状況であれば違法性が阻却される余地はありますが、安易な理由での利用は法的リスクを伴う可能性があるため、慎重な判断が求められます。もちろんこれは男女逆であったとしても同じです。

女性用トイレに長蛇の列ができているのをよく目にするので、早く改善されると良いですね。

なお、こちらの記事ですが、弁護士ドットコムでも簡略化したものが掲載されていますので、是非ご覧ください。

女性用トイレが長蛇の列…軽い気持ちで「ちょっと男性用に」 許される? 弁護士の答えは – 弁護士ドットコム

あかがね法律事務所では、刑事被害者支援や加害者弁護も行っております。

以下よりご相談をお待ちしております。

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